葬儀場にいる。
祭壇には、若いころの母の遺影が飾られている。

「ええっ?母さんが死んだの?」

びっくりして周りを見渡すと、みんな泣いてる。
驚きと戸惑いで気がふれそうになる。

「母さんが死んだ、母さんが死んだ…」
「この間まであんなに元気だったのに、なんで!」

私は喪服を着て、喪主席に座っている。
目の前の弔問客に気づいて、慌てて目礼する。

「死んじゃったんだ…母さん…」

子供の頃、けがをした私をおんぶして
病院に連れて行ってくれた母の背中の
あの温もりがよみがえる。

幼稚園の運動会で、びりっけつでゴールした私を
「よくやった、よくやったね!」と強く抱きとめた
母のあの温かい笑顔がよみがえる。

「ああ、母さん!何で死んじゃったの…」
「俺、俺なんもお返しをしていないのに…」








神様!

もう一度、母と過ごす時間を下さい!

1年とは言いません。1ヶ月でも結構です!
どんなにボケていても文句は言いません!

この手で母を抱きしめたい!
母のそばにいたいのです!

神様、神様!

どうか、どうか!
もう一度だけ、親孝行のチャンスを下さい!

何でもしますから!











う~む…。






そこで目が覚めた。




目の前に母がいる。

母は無邪気に鼻歌を歌っている。
少し気分が良いみたい。

だけど、私の名前を時々忘れる。
たまに、「ご親切にして頂いて」と
他人行儀なお辞儀をする。

一人ではトイレに行けず、紙おむつをしている。

次第に壊れてゆく母。

私は、最近とても疲れている。
自分の自由時間が母の介護で食いつぶされる。

自分を取り戻す時間が足りないから
すぐにイライラする。

やかましかッ!

ワガママをいう母にどなり散らした自分に驚いた。

こんな親なんていらない…

不謹慎にも、そんな思いが一瞬脳裏をかすめる。

「なんてバチ当たりなことを…」
「だって俺、もう疲れたもん…」

最近は、家内にも介護疲れが目立つ。
夫婦の会話も目立って少なくなった。

人の尿臭や便臭ってなかなか取れない。
自分の身体に沁み込む感じがする。

ああ、疲れた…。


そんな矢先に夢を見た。


----------------------
神様、神様!
どうか、どうか!
もう一度だけ、親孝行のチャンスを下さい!
何でもしますから!

---------------------




あれは、夢なんかじゃない!
神様は、私の願いを叶えてくれたのだ!

これが、母さんにお返しができる
ラストチャンス!


神様、ありがとうございます!
母さん、お帰り!

ごめんね…。
もう一回、やり直すから。

-------------------------

親の介護って、人生最後の難関かもしれません。
定年退職してから遭遇する初めての大試練。

この試練を乗り切るためには、
精神世界への理解がなければ
とても難しいと思います。
まして、老老介護となれば…。

老いは順送り。旅立ちの順送り。

親から先に老いてゆくのだから、
子供はその旅支度を手伝わなきゃね♡

神様は、私との約束を先に果たしてくれた。
だから今度は、私が約束を果たす番。

でも、それは義務じゃない!
私の喜び、私の愉しみ!

私の名前なんて忘れてもOK!
大便が臭くても問題なし!
ワガママ言っても大丈夫!

私の覚悟は、もう揺るがない!

母は、あの世に戻る旅支度をしている。
自我のトゲを吐き出して、
丸くなる難題に取り組んでいる。

吐き出した荒い言葉を
真に受けてはならない。

「母さん、頑張れ!」

今度は、ボクがあなたを支えるからね!






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コメント

No title

ああ、ありがたくて手を合わせたくなりましたよ。ブログを読んでいて引きずり込まれていくような文章、場面の展開があり、最後になって、ブタローさん自身のことだったんだと気が付きました。本当に大変な日々でしょうけど、でもここまで、自分の心を律して愛情を確認して母親の介護に当たられるのは素晴らしいですね。さすが精神のあり方を学んで書いておられる王子です。どうか、奥様も、王子もご自身の体調にも気を配って頑張ってください。母親の立場から見れば、私のためにこんなことまでさせてもうしわけないよと心の中では叫んでいらっしゃるかもしれません。もうそれが言えないのですものね。

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